ヤマガタンver9 > 一寸法師と桃太郎と

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▼一寸法師と桃太郎と

まだ眼が覚めぬが眠っているともいえない「まどろみ」の時、夢とうつつが重なり合って思わぬ方向に発想がふくらんでいくことがある。
 ある日のフトンの中、「20才の頃の私」と「桃太郎」と、「一寸ぼうし」が突然つながった。
 以下、その話を紹介するが、多少の飛躍や、突然の転換には眼をつぶっていただきたい。なにしろ、半分寝ぼけている中の出来事なのだから。

 20才の私はどういうわけか生き方を求めていた。自分らしい生き方をさがしていた。
 人生の岐路に立った時は、たいていの場合、自分がそれまでにたどってきた道を振り返り、どこかに何かヒントがないかを捜そうとする。当時の私に最も大きな影響を与えていたのは高校時代の三年間のはずだった。しかし、思い出すのは三角関数や英単語だけとはいわないが、頭の中をさぐっても、出てくるのは生き方とはあまり関係のない、あれやこれやの雑多な知識がほとんどだった。
 ようやく私はそこで「いかに生きるか」を全く考えることなく、また学ぶこともなく20才になってきたという、それまでの人生の浅薄さに気付いた。    
 やがて、どうもその浅薄さは私だけのものではなく、おそらく程度の差こそあれ、同時代人にかなり共通しているもの、あるいは大部分の日本人にさえ言えることなのではないかと思うに到った。
 何故かといえば、その根っこは、だれもが幼児の頃からくり返し、くり返し聞かされてきた「桃太郎」と「一寸ぼうし」の中にあるのではないかと思えたからだ。
 まずは「桃太郎」。自分のものではないお宝を戦利品として自宅に持ち帰るのはいかがなものかとも思うが、問題は話の終わりかたにある。荷車いっぱいにそのお宝を満載して桃太郎は村に帰って来た。桃太郎は「お金持ち」になった。そして・・。話はそこで終わっている。手に入れたお金で川に橋を架けたり、学校を造ったり、貧しく苦しむ人たちに・・・そんな話はまったくない。 
 そして「一寸ぼうし」。彼も鬼退治をして、助けたお姫様と結婚し、やがて「エライお役人様」となった。そして・・、この話もそれから先がない。話はここで終わっている。
 手に入れたお宝を使って何をしたのか、あるいは「エライお役人様」になって何をしたのかは全く語られてない。つまり、何かお金を得ること、あるいはエライお役人になることが終着点であるかのように描かれているのだ。こんなお話を、小さい時から、くり返し聞かされてきた結果、「お金」や「出世」が人生の目的であり、その成功、不成功もそこにある、と考えるようになってしまったとしてもおかしくはあるまい。
「一寸法師、桃太郎症候群」。志を失った高級官僚から「オレオレ詐欺」の若者まで、幅広くこの類に入る。その正体は「生き方」、哲学の不在。

 そして・・、まどろみながら、論理の飛躍を楽しみつつたどりついた結論は次のようなことだった。私たちは「桃太郎」と「一寸ぼうし」に変わる「新しい童話」を子どもたちに語り聞かせなければならない。それは俺たち自身の物語だ。あっちでぶつかり、こっちで泣いた、けっしてカッコイイ話じゃないけれど、自分がたどってきた中から得た「生き方」を子どもたちに。じいちゃん、ばぁちゃん、母ちゃん、父ちゃんの話、近所のおじさん、おばちゃんの話でもいい。子どもたちはそれらを聞きながら、これから歩む自分の人生を考えるだろう。夢中で生きて来たけれど、振り返ってみれば泣き笑いの連続だった。子どもたちに伝える材料には事欠かない。
 これが、まどろみの中の結論だった。
どうだろうか、ご同輩。

月間「地域人」34号(大正大学出版会)・拙文

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