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▼誕生!まほろば天女ラクシュミー#4



「こ、コレが、ラクシュミー・・・」
両手を顔の前に広げる。
手首に巻かれたひらひらのついたリストバンドから、視線を下にやると胸元にちょうちょうを模したような大きなリボンがついている。
着物のように腰帯で止められた上着はそでがついていないので動きやすそうだ。さらに視線を下にやると着物が太ももの辺りでスカート状にふんわりと別れている。あわてて確認したらスパッツのような下着をはいているようだ。
足元はブーツ、そして特徴的なのが羽衣のように背中についている大きなリボンだ。
くるくると回って衣装を確認していると頭が重い、その上ピンク色の髪の束のようなものがチラチラと目に入ってくる。まさかと思って頭をまさぐる。地毛だ。それもずいぶんと伸びたみたい。腰の辺りまであるようだ。
自転車に戻り通学かばんをつかむと中からかがみを引っ張り出す。
何度も何度も失敗して、どうしてもできなかったわたしの理想のお化粧。そこには、まさに理想どおりに仕上がった顔がかわいらしくうつっていた。
「衣装は気に入ってくれたッハ?」
「ちょ、ちょっとこどもっぽいかしら」
「そんなコト言って、顔がにやけてるッハ」
う・・・シンハは一言余計な性格のようだ。
「そ、そんなことよりさっきのやつ」
「そうだッハー、すぐに追いかけるッハー」
わたしが照れ隠しにそういうと、シンハはあわててふもとのほうを見た。
先ほどの紫の化け物はわたしとシンハのやり取りの間にずいぶんと先へと進んでしまったようだ。
まって、このまま行ったら学校の方に行っちゃう。もし新しい学校が壊されちゃったら・・・ダメ、そんなの絶対いや、もう古い学校になんて戻りたくない。
わたしは思いっきり大地をけって駆け出した・・・
と、思ったら、なぜか空の上にいた。
眼下に広がるのはわずかに雪の残る田んぼとぶどうのハウス。
高さの目算なんてまるっきり見当がつかないけど、滝商店の前に止まっている軽トラックがコンビニで売ってた缶コーヒーのおまけのミニカーくらいに小さく見えた。
じょじょに浮遊感がうすれてくる。
そして、垂直落下が始まる。
「いやぁああぁあぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁああぁおぁわぁぁああぉぁあぁ!!!」
見る見る地面が近づいてくる。
死ぬ! 死ぬ! 死んじゃう!
わたしは必死で体をひねる。
「ーーーーーーーーっ」
がに股の恥ずかしい格好で、何とか両足で地面をとらえることには成功するが、足の裏からしびれるような痛みが頭の先まで何度も何度も往復する。
「なによこれ、力の加減がぜんっぜんわかんない」
シンハがよろよろと近寄ってくる。
「気を付けるッハー、今の君は普通の人の何百倍もの力を持っているッハー」
「そういうことは早く言ってよ!」
「言ったッハ!驚異的な身体能力が備わるって!」
驚異的にも限度があるでしょ・・・
足のしびれがいえると、少しずつ足を運んでみる。
歩く速度から早足、そして走る動きに。
少しずつ動きを早くすれば何とかコントロールできる。
何よりスピードが段違いに速い、まるで自動車の窓から顔を出しているかのような、そんな感触を頬に感じる。
ぐん、ぐん、ぐんと地面を蹴るたび加速していく感じもまた楽しい。
中学校が見えてきた、中から男女問わず悲鳴が聞こえてくる。間に合わなかったか!
校門の手前でフルブレーキ、砂埃を立てながら5メートルほどすべる。
少し戻って校門から校庭を見渡す。
化け物はまだ校舎にも生徒にも手を出していない様子だ。
間に合った、よーし、後はシンハの言うとおりに戦えば!
「シンハ!どうすればいい!指示をちょうだい!」
わたしは後ろを振り返る。しかしそこにはシンハの姿は無い。
そういえばよろよろしてて、さっきはまともに歩けなかったような・・・
やっちゃった・・・置いてきた・・・
顔からさぁっと血の気が引くのが自分でもわかる。
そうこうしているうちに化け物が校舎へと向きをかえる。そして両腕を組み高く掲げた。
まさか、校舎を壊す気じゃ、止めなきゃ、でも、一人でなんて・・・
化け物が間合いを計り、もう一歩校舎へと足を踏み出す。
「やめてーーーーーーーーっ」
わたしの絶叫に化け物も、そして逃げ出している学校のみんなもいっせいにこっちを向いた。
集中する視線に頭が真っ白になった。
「ほがなごどしたら、せっかぐ出だばっかのガッコぼっこれんべしたー」
(訳:そんなことしたらせっかく出来たばっかりの学校が壊れちゃうじゃない)
普段は努めてしゃべらないようにしている方言が飛び出るぐらいパニックだったと思う。
たぶん涙目だ。
こうなったらやるしかない。意を決してわたしは化け物めがけて突っ込んだ。
一気に間合いが詰まる。わたしは右手を大きく振りか、ぶっ!
またも力加減をあやまり顔面から化け物の胸あたりへと体当たりしてしまう。
しかしながら体当たりが功を奏して化け物は大きくかたむき、そして倒れる。
相当の重量があるのだろうか地響きが起きる。
どっ、とギャラリーから歓声が上がった。
・・・いける。
力加減はまだまだつかみきれないけど、
地に足つけて殴り続ければなんとかなるんじゃないかしら。
わたしは立ち上がると化け物に対して半身になって向き合い、こぶしを胸の前で構える。
化け物はうでを突っ張り必死に立ち上がろうともがいている。
わたしはまた突っ込んでしまわないように、すり足で化け物に近づくと、まだ低い位置にある頭をめがけて渾身の右ストレートを叩き込む。
化け物の頭がぐにゃりとへしゃげる。そして再び化け物は地面に倒れ付してしまう。
反撃に備えて再度構えをとる。
しかし化け物はひとみと口を閉じピクリとも動かなくなった。
「やっつけた・・・のかしら?」
そう思った瞬間、化け物の足の辺りから2本のムチのような器官が現れわたしの足に絡みついた。
そのムチに足をとられわたしは転倒してしまう。
次の攻撃に備えなきゃ、そう思って化け物を見る。
すると、腰の辺りに真っ赤な目が開いたかと思うと一気に隆起し、両の腕を高く持ち上げた体勢へと変化した。
「こんなのあり?」
思わず声が出る。
化け物の口が開き、にやりと笑う。
はずみをつけるために体をのけぞらせる。
やばい、やられる!
そのときだった、化け物が突然「く」の字に折れ曲がる。
逆光でよく見えないが、誰かが両方のひざでぶつかって行ったような・・・
化け物は再びどうと倒れ伏す。
しめた、今のショックで足が自由になった。
そのとき、わたしの前に大きな手が差し伸べられる。
みあげると、誰か大柄な男の人のようだ。
顔には覆面をしており逆光も合わせてよく表情が見えない。
ともあれ
「ありがとう」
とお礼を言って微笑むと、わたしはその手をとって立ち上がる。
すると彼はすぐにくるりと後ろを向いて、跳びあがったかと思うとその場から姿を消してしまった。
「あのひとは・・・」
姿を消してしまった彼を探すためあたりに視線を走らせる。しかし彼の姿は見つけられない。
そのうちに、みたび化け物の体がごもごもと隆起を始める気配がした。
「ラクシュミー」
どこかで聞いたような声がした。
「ラクシュミー」
シンハの声だ。追いついたんだ。
「ラクシュミー、トゥインクルロッドを使うッハー」
「トゥインクルロッド?」
また聞きなれない単語が出てきた。
わたしは化け物と間合いを取るとシンハにたずねた。
「チンターマニに手を当ててラクシュミートゥインクルロッドと叫ぶッハ」
わたしは言われたとおり、胸のリボンの中央についたチ・・・如意宝珠に手を伸ばし、
「ラクシュミートゥインクルロッド!」
と、叫んだ。
すると、チン・・・如意宝珠が胸からはずれ、柄のような部分が丸い側から生えてくる。
途中にちょうちょの羽ををあしらった飾りがついている魔法のステッキだ。
胸の前に浮かんでいるそれを右手でつかむと頭の中にトゥインクルロッドの使い方が流れ込んでくる。
どうやらこの杖は、空間に魔方陣のようなものを描くための道具らしい。
魔方陣を描く動作はまるで踊りのようで、くるりくるりと体を回転させるたびに体に力が満ち満ちてくるような感覚に包まれる。
体中にたまった気がおなかに集まる、そしてその気の固まりは胸をとおり、右手に流れ込み、トゥインクルロッドの先の宝珠へと凝縮されていったようなかんじがする。
わたしは化け物へと向き直る。

次にいうべき言葉が自然と頭の中に浮かんでくる。
「ラクシュミー・トゥインクル・ファウンテン!」
声を発すると同時にトゥインクルロッドの先からきらきらという光の奔流がまるで噴水のようにあふれだし、化け物へと向かって降り注いだ。
「ダ・・・ダ・・・ダデーナァアァアアアァァァァアアアァァァ・・・・・・・・」
輝く光の泉の中で、化け物は体をねじらせ、ゆがめて、ちぎれ、そして消えていった。


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