▼重症の獅子頭2019/08/30 16:55 (C) 獅子宿燻亭7
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随分と獅子頭の修理をしてきたが、その中でも最大級の破損状況だ。。
90年以上も地域の厄祓いを行ってきた獅子頭は、顎が複雑に割れ満身創痍
の極みだった。
両方の軸穴付近が割れ、亀裂が舌まで続いて剥離してしまっていた。
昭和初期に数多く獅子頭を制作した九野本の竹田吉四郎氏の名作である。
随分この獅子から学び、獅子頭彫りを志した頃に影響を受けた獅子頭である。
残されている吉四郎氏の神社の獅子頭を比べて飛び抜けて形の良い獅子である。
自分が若かりし40代に脳天に乗せひたすら奮迅し、その重みを味わった経験は忘
れ難いものである。
一見して複雑骨折のアゴの再生は諦めて、新しいアゴを頭部に合わせて制作する
方法も考えられる。しかし、現在ではFRP(強化プラスチック樹脂)の技法を用
いて修復法が確立している。新調の獅子頭にもこの補修を用いて、歯打ちの衝撃
に耐えうる工法を編み出した。更にCFRP(カーボンファイバー樹脂)を酷使さ
れる歯の部分に施工している。
今回の修復には木地の状態を知る必要があり、塗膜を剥離する必要があった。
研磨し上塗りの漆から下地の麻布まで剥離してみると意外な部分が露呈してきた。
獅子頭の右牙の下の部分に漆のパテであるコクソを多量に使用し、窪みを埋めて
いる。表皮に近い部分で左側に比べると右側が薄く、節やウロ(傷や皮を覆って
しまった部分)が有ったのだろう。薄く作った分強度が失われ断裂してしまった
と考えられる。
吉四郎氏は同時期に草岡の津島神社の獅子頭も制作しているが、納品して間も無
くすぐに破損してしまったという。使用した材は栃で、津島神社と同じ栃材を使
用したのかも知れない。
これから下地にFRPの密着を促すシーラーを塗布してFRPを積層施工する予定だ。
果たして激しい歯打ちにこの工法が耐え得るか・・耐え得る筈と信じている。