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▼第四章 夫婦間の適度な距離の保ち方

コミュニティ及びコミュニケーションの重要性と共に、売却後の人生を豊かなものにできるかどうかのキーポイントとなるのが「夫婦関係」です。夫婦関係が良く円満であれば、リタイア後のネクストステージもうまくいきます。「主人在宅ストレス症候群」という言葉があります。ウィキペディア(Wikipedia)によれば、夫が1日中在宅するようになることで、妻のメンタルヘルスや体調が悪化する疾病概念だそうです。売却後仕事をリタイアしてしまえば夫婦で一緒にいる時間は格段に増えます。一日の大半を夫婦で過ごすと言ってもいいかもしれません。しかしながら、リタイアした途端、夫の行き場がなくなると妻は夫を煩わしく感じてしまいます。このことが、夫婦間のトラブルを引き起こす火種になるかもしれません。

 

経営者に限らず男性の大半は、リタイアしてしまえば自宅という居場所があり、「妻と安泰した余生を暮せる・・・」と思っているかもしれません。しかしながら、妻と共に平穏な余生を暮すには、それなりの努力が必要です。

 

会社を必死で切り盛りし、一生に一度体験するか否かという会社売却を成功させ、余生の資金を作り上げるまでは、おおよそ夫婦間に亀裂はないかもしれません。夫婦間のコミュニケーションを気遣う余裕などないからです。しかしリタイア後は奥様への配慮が必要です。専業主婦の奥様は長年、家事や子育てに専念し、家を守っていたわけです。経営者のあなたにはあなたの考えがあり、奥様には奥様自身の考え方や行動様式があります。あなたが考えているネクストステージプランと奥様が考えるネクストステージのプランには隔たりがあるかもしれないのです。ネクストステージ計画の隔たりどころか、自宅が、リタイア後の快適な居場所にならない危惧もあります。

 

夫が妻と一緒に過ごす時間が増えると、しらずしらずのうちに妻を干渉しがちになります。以前マスコミで「家庭内管理職」という言葉が報道され話題を呼びました。定年退職後、家族を部下のように扱って、家族から愛想を尽かされる男性を指すのだそうです。売却後にリタイアした経営者にも当てはまるかもしれません。「会社でトップに立っていた自分の姿」が忘れられず、家庭内で経営者のように振る舞い、妻に対し偉そうに命令し、ついには、妻や家族に見放されてしまうというのが、リタイア経営者の「家庭内管理職」の姿かもしれません。心当たりはないでしょうか。

 

会社を高額で売れるほど立派に成長させてきた経営者は、良くも悪くも、どちらかと言えば頑固な性格が多いものです。「俺についてこい」と言わんばかりに、率先垂範で経営の舵を取ってきた猛者揃いかもしれません。しかし、ネクストステージにおいては、「俺についてこい」の率先垂範よりも、協調性と妻や家族への思いやりが重要になります。妻とのコミュニケーション、妻への思いやりはネクストステージを最適に暮らすための最優先事項です。

 

しかしながら、妻とコミュニケーションがとれない夫がたくさん存在するようです。仕事本位で売却前の考え方や生活が染みついている経営者は、結婚生活も長く、妻と向きあって話す話題がないのかもしれません。さらに、夫が経営者時代に妻とコミュニケーションを取ろうともせず過ごしてきたにも関わらず、「私たち夫婦はお互いを知り尽くしているから問題ない」と勝手に決めてしまっているのかもしれません。

 

既に奥様が他界されているなど、一人でのネクストステージを確立しようと奔走している経営者であれば問題ありませんが、夫婦間のコミュニケーションに、問題意識を持たない経営者のネクストステージは、悲惨なものになることはまちがいありません。最悪の場合離婚にまで進展してしまう危険性があります。反対に、夫婦間のコミュニケーションが上手くいけばいく程、夫婦の関係は良好になり。ハッピーリタイアメントとしてネクストステージも楽しいものになります。

 

売却後の夫婦関係を良好にしていくポイントがあります。次の4つが夫婦の適度な距離を保つための秘訣と私は思っています。

 

1 何故会社を売却するのか奥様が納得するまで事前に話し合う。

2 売却後のネクストステージについて夫婦で事前プランニングする。

3 売却益及び財産を共有し秘密を持たない。

4 夫は妻の「メモリアルコンシェルジュ」となる。

 

本書のいたるところで私の「妻」の偉大さを書き綴りましたが、彼女は売却前の会社の状況、そして、なぜ会社を売却するのか、さらには、M&A実践時の手伝いもしていましたので、売却益がどこでどのようになっているのかを全て把握しています。夫婦間の生活様式や財産に対し秘密がなく全てオープンです。前述、夫婦関係を良好にしていくためのポイント「秘訣1〜2」について深く話合いの後M&Aに臨み、現在は前述「秘訣4」に示したように、売却後の私生活を楽しくすべく、様々な記念日を見つけ、夫婦間で適度な距離を保ちながら、私がメモリアルコンシェルジュとなっています。メモリアルコンシェルジュについては後述したいと思います。

 

このように書くと、売却前も、売却後も夫婦睦まじく経過しているように見えますが、売却後大きな試練に襲われました。6ケ月の別居生活に見舞われたのです。壮大な夫婦喧嘩でした。火種は、子育てや親族との付き合い方についての考え方の相違でした。売却後、私はネクストビジネスを第2創業し、自宅から車で10分の場所にオフィスを構えていました。夫婦喧嘩と共に自宅を飛び出しオフィスに寝泊まりするようになったのです。その喧嘩は長々と続き別居が6ケ月も続きました。離婚危機にまで発展しようとしていたことも事実です。

 

その当時を振り返ると、昼はオフィスで仕事を行い、夜はオフィスで寝泊まり、風呂は近くのスーパー銭湯に行ったり、早朝4時ころ、妻が起きる前に自宅に戻り自宅でシャワーを浴びたりという連日でした。食事は、スーパーやコンビニで調達、或いは外食という生活でした。当時、長男と長女は成人し家を離れていましたが、次男はまだ中学生で同居していました。言葉や態度で反抗を見せることはありませんでしたが、ただでさえ難しい年ごろでしたから、私を批判し続けていたはずです。私も離婚を覚悟していた時期でもありました。

 

私の離婚を阻止することになったのは、夫婦喧嘩の途中で、妻との話合いの機会を持った際告げられた次の言葉でした。

 

「今、早まって離婚を決断したならば、きっと将来後悔する! 子供たちに合わせる顔が無くなるよ!」・・・という毅然とした言葉で私を諭したのです。

 

別居前から妻とは、私生活、会社の状況、将来の行く先について隠し事なく、しっかりと話し合っていました。そのため、私が会社を売った理由、一人でM&Aという戦場に立ち向かって行った売却時のつらい日々、売却が成功した際の喜びなどなど、妻は全てを把握し、私の考え方や行動を理解しサポートしていてくれていました。そしてさらに別居時に至っては、私を信頼し、別居の6ケ月を耐え、元のサヤに納まるのを辛抱強く待っていてくれたのです。売却前の「取締役妻」の役職は売却後も継続していたのです。現在では、親子それぞれ別居していますが、それぞれの道を楽しく歩んでいます。妻の前述の言葉がなければ私は孤立し、孤独な人生を歩んでいたかもしれません。

 

この別居以来、喧嘩は時折再発していますが、お互いがお互いを尊重し思いやることで、大きなトラブルに発展していくことはありません。夫婦生活を続けていく以上、一年365日、四六時中、夫婦仲睦まじく暮らしていくことを理想としながらも、事実上不可能なことであると私は思っています。しかしながら、小さな喧嘩はあっても、大きなトラブルに発展することがないように、お互いがその踏まえを持ちたいものです。そのためにも「夫婦間の適度な距離」で「親しき中にも礼儀あり」を心掛け、お互いを尊重しあい、共にいたわりあっていくことが重要です。

 

 


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