▼獅子舞の争闘の話2016/11/20 15:54 (C) 獅子宿燻亭6
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「わしがとこの今昔」という本を米沢の図書館で見つけた。
迂闊にも作者を控えるのを忘れてしまう、初歩的なミスを犯してしまった。
何気に開いた古書の目次に「獅子舞」の文字が浮かんで見えたのだった。
その部分をコピーさせてもらった資料である。
文中に西荒瀬村とあり、舞台はかつて庄内の酒田市飽海郡吹浦付近の村である。
「わしがとこの今昔」より引用 (句読点も原文のまま)
へ、獅子舞の争闘
この話も何時の頃かは判らない、ただ物凄い連日の吹雪で、村人が閉ぢ籠められてゐた正月の出来事
である、いずこからか二組の獅子舞が風の如くに、西荒瀬村に現れ陽気な太鼓と華美な踊りとによっ
て、この村の正月を一層賑わしてゐた、そうして又、冬が訪れてから日がな一日として陽気な生活
をしたことのない村人には、この獅子踊がどれ程感興を添へたかは想像の外であらう、この二組が
離れ離れに村中を舞ひ廻つている内、不團偶然にも或る家で出ッくわしてしまつた、そこはそれ
獅子舞とても算盤(そろばん)づく、最初の程は俺が俺がと先着争ひをしてゐたが、やがては双方
激昂して大喧嘩とさへなつてしまつた。
年に一度の正月が獅子舞によって、景気づけられ大喜びであつた村人も、この思ひも寄らぬ
争ひにただわけもなく騒ぐばかり、誰一人として仲裁する者すら無かった、暫くは睨み合って
ゐた双方の獅子面は俄然、驚き騒ぐ人々を尻目にかけて天高く飛び上がつたと見る間に、猛烈な
掴み合ひを始め、遂に片一方の獅子面は利在らずして敗れ、いずれかに姿を消してしまつた。
獅子面を失つた方の獅子舞の連中は勝つた敵方の陽気なのに比して、気の毒な程沈み切り
スゴスゴと獅子面捜しに出発したが、村内隈なく捜しても遂二に見當たらず唇をかみしめ
かみしめ何處ともなく立ち去った。
サテ、所在不明となつた獅子面はその後どうなつたか? 無念や一敗地地に塗れ、再び主人等
に顔を合わすことも出来なかつた獅子面は、村内の勘三郎と呼ぶ村人の家にある大石にひそかに
降り、怨めしげに勝てる獅子面の立ち上がるのを見送つてゐるのを、勘三郎が発見して持ち主の
後を追つたが、行き先が判らず獅子面を手渡すことも出来なかつたので、その獅子面は暫く
勘三郎が預かつてゐたとのことである。
然しながら當時の貧弱な西荒瀬村には神主さへもをらず、この獅子面を祭ることさへも知らなかっ
たので、これを吹浦村に送り同村の人々をして、舞はしめることにしたと伝へられてゐるが、今でも
毎年五月十日に吹浦方面から獅子舞が入り入むのはこれがためであるとの事だ。 以上
いやいや
昔の文体で旧かな使い
「っ」の促音が「つ」になり、「え」が「へ」になっていたりと読み難い。
「ゐ」のような変換にテクニックが必要な文字もある。「かみしめ かみしめ」「すご すご」等の
繰り返しが、「く」を長く伸ばした様な記号になっていたりする。
「離れ離れ」は「離れ」に「く」の長いやつに濁点をくっつけて表すという離れ業を使用している
が、私の拙い技術ではここに表せないのが悔しい所だ。