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▼さまざまな止まり木

さまざまな止まり木/


「管理職はやめたよ。手当てが少しばかり増えたって役職の仕事は俺に似合わないよ。」鼻から荒い息を出しながらまくしたてるのは友人の惣さんだ。

 赤いバイクに乗って働く彼が、ヒラから役職に変わったと聞いたのは一昨年ことだった。仲間達は小さな酒宴を開いてそれを祝ったが、それから一年半後、惣さんは自ら申し出てもとのヒラにもどった。仲間達は多少とまどいながらも、今度は激励会をひらき、彼を肴に愉快な酒を飲んだという。

 人生はつまるところ、自分にあった生き方、暮らし方ができるというのが一番だ。いうまでもないことだが、それを決めるのは自分自身であっって、世間の価値観でも、会社の都合でもない。

 ヒラに戻った彼は、元気にバイクのハンドルを握っているのだが、その顛末を聞きながら、私は例によってわが家の800羽のニワトリ達にまつわる、似たような話しを思い浮かべていた。

 惣さんとニワトリをごちゃまぜにするのは不謹慎かもしれないが、まぁ、彼なら笑って許してくれるだろう。

 わが家のニワトリ達にとって、鶏舎の中が過ごしやすいかどうかの問題は大きい。彼らが休むときは、たいてい止まり木の上にあがる。スズメやカラスたちが木々の上で休むのと一緒だ。私は全ての止まり木を、1メートルぐらいの高さにそろえて作っていた。みんな同じく、一様にここで休んでくれと。

 たいていのニワトリにとってはそれでいいのだが、中には群れから離れ、屋根裏に通してある高い横木の上に、自分だけの世界を見つけて休むトリ達も何羽かいた。「へぇー、こんな所にも止まるのかい?」

 ある時、彼らは多様な止まり木を求めているのかもしれないと気がついた。

 これが自然界の鳥ならば、いくらでも自由に好みの場所を選ぶことができるのだが、わが家のニワトリ達の選択肢はとても少ない。高さ1メートルの所か、屋根裏の横木かだけなのだ。この選択はいかにも貧しい。

 さっそく作業にとりかかった。下は地面から50センチぐらい、上は屋根裏の高さまで、傾斜をつけ、たくさんの止まり木を固定した。ニワトリ達は始めのうちこそとまどっていたが、少しづつ上にあがるようになり、やがて4〜5日後には下から上まで、それぞれの好みの場所で休むようになっていった。

「うん、世の中、こうでなくちゃいけない。」

人間社会では横並び以外の人、あるいはちょっと目立った人が排除されがちなご時世。ニワトリ達を見ながら、あらためて生き方、暮らし方は人それぞれ多様でいいんだと思った。

そうだよな惣さん。

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写真説明;止まり木や屋根裏に渡してある横木で休むニワトリたちを撮ろうとしたが、朝の時間が遅くて、止まり木にはほとんどいなかった。撮れたら入れ替えよう。

この文章は「虹色の里から」に掲載された文章です。
「ぼくのニワトリは空を飛ぶー再開2回目」は毎月1日と15日をメドに書こうと思っています。








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