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▼建ちゃんと重太さんの話

建ちゃんと重太さんの話/
俺たちの村は穀倉地帯のど真ん中にある。減っているとはいえ地区民40戸のなかの14戸がコメの販売農家で、農民の平均年齢は65歳だ。
重太さんは専業農家で75歳。3.5ヘクタールの水田を夫婦で耕している。その重太さんの家にお茶に寄ったところ、すでに同じく専業農家のケンちゃん(78歳)も来ていて、話題はどうにもならない安さの中でいつまでコメを作り続けることができるかの話となった。

 今年もコメの価格はどうしようもなく安い。生産原価より販売価格が安いという状態は十数年続いてる。

「いま使っている機械が壊れた時かなぁ。」と重太さん。たしかに農業機械はいずれも高額で、更新する段になれば誰しもが考えるところだ。
「俺は死ぬまでだな。お金になるからコメを作り、ならないからやめたとはならないな。借金増えても、また機械を買って頑張るよ。」はケンちゃん。この言葉に触発されたように重太さんも話を重ねた。
「俺も損得でコメ作りをしているわけじゃないからなぁ。やっぱり俺にとってもコメ作りは人生そのものだからよ。人生は赤字が続いたからやめることにした、あるいは黒字だからもうしばらくやってみようか、とはならないべ?米作りもそれと一緒だよな。」

 すごい話になって来た。確かに今までコメづくりをやめて行った人のほとんどが、倒れたり、病気で動けなくなってのことで、稲作が赤字だからという理由は聞いたことがない。もちろんとんでもなく赤字なのだが、村の農民にとって、コメ作りは経済の領域ではなく、人生そのもの、生きることそれ自体なのだろう。どんなに環境が変わろうとも、春になれば決まったように芽出しを行い、田を起こし、苗を植え続けてきた。
 でもな、だからと言って甘えてはいけない。付け上がってはいけないぞ。この人たちが本当にできなくなった時、田に苗を植えなくなった時が農業というよりも、日本自体の終わりなのだろうと思う。そしてな、脅かすわけではないが、その日が意外に近いような気がしてならないのだ。

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